公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
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吟詠音楽の基礎知識 2021年10月




〈説明〉

質問をいただいてから、質問の真意を考えれば考える程、分からなくなってきました。

『本数を下げるきっかけ』?

これを自分自身で決めるのではなく他者からの指示、アドバイスで決めるという事でしょうか?つまりいつでも下げる用意があるということか、または外部からの指示がなければ、いつまでも8本で吟じていくような気がしているということでしょうか。

 一つ心当たりがあります。質問者の最高の本数は8本ではなく、9本か10本なのではないでしょうか?以前、他の少壮吟士から聞いた事があります。『私の最高の本数は10本ですけど、他の人との合吟・連吟の都合から8本ということになってます』、質問者も同じ状況なのでしょうか?読者の中にはこの質問の意味がよく分かるという方もおられるのではないでしょうか?私がお答えするより、同じ状況の方にご回答願いたいような質問です。つまり『今現在、周りの環境に合わせて本数を決めているので、将来周りの環境が変わったら自分もそれに合わせて変えるべきかどうか?』という質問なのでしょうか。その点を確かめずにこの回答を作成しております。

 私の立場から、基本的な事をお答えしようと思います。

 一吟詠家としては常に自身の最高の本数を維持すべく精進しなくてはなりません。また、日頃、舞台やスタジオで同じ組になっていた方々が7本になったからといって、無理に合わせる必要はありませんが、仲間外れがいやだとか、自分自身が低音域まで十分な響きを持って吟ずることができるのでしたら、むしろ吟詠力に幅ができて良いとも言えるでしょう。

 機会あるごとに申し上げている事ですが『自分自身の本数を固定してしまう事は良くない』という事の意味は、自身の最高の本数による吟と、2本下げた時の吟を聞き比べて、印象がどのように変わるかを承知しておく事が大切であり、この印象の違いを吟題の違いに応用するべく、1本下げた吟と2本下げた吟を何時でも吟じられるようにしておくことが必要であるということです。

 環境が変わったり、自身の声が変わったりなどで本数を下げる事になった時、問題なく変更できるように準備するためにも、3種類の本数をマスターしておきましょう。

『いつ、どういうきっかけで本数を下げたらよいか』に対する回答になっていないかもしれませんが、これがもし少壮吟士からの質問でなく一般の吟詠家からの質問でしたらこう回答するでしょう。

 誰しも加齢によって本数は下がるものです。今までの本数が『つらいな』『厳しいな』と感じたときは、聞き手にもその『苦痛』が伝わります。一人で稽古のときは苦しい本数で吟ずることも必要でしょうけれど、聞き手がいる所では使えない本数です。自分自身が気持ちよくのびのびと吟ずることのできる本数でないと本番には使えません。『今までの本数に苦痛を感じたとき』が本数を下げるときです。