公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
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吟詠音楽の基礎知識 2021年6月



〈説明〉

 現在、独吟コンクールの全国決勝における調和審査では、『音程の安定度』という観点から、伴奏音と心地好くハーモニーしているかどうかを目安にしています。

 音程の狂いが1/2以上の場合は、3/4本なのか1本狂ったのかなどの違いはあまり正確に判別しようとは思っていません。全国の決勝ともなると、音程の大幅な狂いは致命的であり入賞に絡むことは有り得ないので、問題題外と考えるからです。

 逆に、正確な音程を判別しようとするとき、1/6本違うのか、1/8本なのか1/10本くらいなのかを数字で表すことはできませんので、伴奏音とのハーモニーの度合いで優劣を判別しているのです。

 つまり、決勝における調和審査ではすでにハーモニーの良し悪しを目安に音程の正確さを判別しているのです。

 読者の中には『チューニング・メーターを使えばいいのに』と思われた方もあるかもしれませんが、この場合には役に立ちません。楽器を使う方にはお馴染みの道具ですが、伴奏音と吟声が同時に聞こえる状況では、どの音を計測すればいいのかメーターが困ってしまいます。音程審査の配点が30点だったころ、コンクールにこの種のメーターを持ち込んだ方があって『このメーター故障だ』と怒ってましたが、メーターに罪はないのです。当時は音程ガイド音を流しながらのコンクールでしたので、吟声がとぎれる瞬間は音程ガイド音だけになるので、メーターは正確に中央の0を指しますが、吟声が発せられた途端に左右に暴れ出し、まるで壊れてしまったかのような動きを見せます。このメーターは常に単音で一定の音程でないと、メーターの指針が一か所を指し示すことができません。吟声のように常に変化があるような音には不向きなのです。まして同時に二つ以上の音や声を聞かせても、正しい表示はしません。また、一つの声だけを聞かせても、ビブラートがあるとやはり暴れてしまいます。・・・・・・余談になりました。

 つまり、吟の音程を数字化することは難しいのです。

 拍子が審査の対象になるときは『読みのリズム』、つまり『2音節1拍』で進行しているかどうか「日暮の」が「日紡の」になっていないか、「繊手を」が「千秋を」になっていないかなども審査対象になるでしょうし、息継ぎが長すぎて節の進行が止まってしまうことがないか、つまり伝統的吟詠法である『二句三息』のリズムに沿っているかなど、はたまた、コブシの間合いが心地好い『散らし』になっているか、など、コブシのセンスも審査対象となるでしょう。

 和音は、音程の話にも出てきたように、ハーモニーするかどうかが音程の安定感に大きくかかわってきます。しかし、現在は音程審査のためにハーモニーを参考としているだけで、節自体がハーモニーしにくい節であっても不利になることはありませんが、和音自体を審査対象にすると、ハーモニーしている箇所が多いほど得点が高いということになり、流統の節が伴奏によく合っている場合が有利となり、そうでない場合が不利となります。また、この体制を長く続けると、皆が伴奏に良く合う吟譜を用いるようになり、全国的に同じ吟譜となり、ますます画一的な吟が流行るでしょう。

 私個人の考えでは、良い方向とは思えません。

 伴奏と吟の節が合わない場合で一番目立つのが、『半音(1本)違い』と『1音(2本)違い』です。このような場合は吟声を硬く強めに発声するとつじつまが合います。(図1)



 声自体がハーモニーしやすい声という場合がありますが、これはハーモニーを意識して訓練した人や、あまり指導などせずに声を温存してきた人に多く見られ、伴奏に対してもよくハモることはもちろん、自身の声同士でもよくハモります。つまり無伴奏でもよくハモるということです。天性の人はうらやましいですね!