公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
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吟詠音楽の基礎知識 2021年4月



〈説明〉

 最初に伝統的絶句の節回しを、早送りで表してみます。ここでは言葉のアクセントをすべて平板と仮定してその時の譜を二句単位で表してみます。コブシは省略です。

 (起句・承句) 三三・・・・・・三・・・・・・’三三/五六 ・・・・・・・・・七六五'三三 二三・・・・・・'三三二乙 乙一・・・・・・二一乙/二三・・・・・・’三三・・・・・・'三五・・・・・・六五'三・・・三二二・・・・・・・・・/

 (転句・結句)三七・・・・・・六・・・・・・七六 五六・・・・・・五・・・・・・六五/五六・・・・・・七六五・・・・・・'三三二三・・・・・・'三三二・・・一乙 乙一・・・・・・乙/二三・・・・・・'三五・・・・・・ 三六・・・・・・・・・七六五・・・'三三 二三・・・・・・

 いまここで2句ごとに分けたのは、それぞれの2句に一つのメロディーが跨(また)がっているため、あえて二つのグループに分けて表しました。

 また、伝統的節回しとして紹介しましたが、全てが昔から今じられている節ばかりではありません。例えば吟じ出しについて考えてみますと、昔は二三・・・・・・(ドミ・・・・・・)と吟じ出す割合がかなり多かったと記憶しています。二三・・・・・・(ドミ……)は詩吟の主和音(ラドミ)ですから、二三・・・(ドミ・・・)と吟じ出すのはごく自然のことですが、次第に三(ファ)から吟じ出すのが主流になってきました。今では90パーセント以上がファからの吟じ出しとなっています。昔はその吟じかたも、無アクセントでファファファ・・・・・・と吟じる場合と、ミファファ・・・・・・と平板で吟じる場合がほとんどでした。現在のようにレファファ・・・・・・と「レ」を用いるようになったのは、当財団のコンクール用音程ガイドの前奏に「レ」が用いられてからだと認識しています。前奏の最後が「ドシラファーミレミー」となっており、これが頒布された当初は「詩吟に『レ』は無いはずだ」『レ』は吟変わりの時だけだ」と陰で音程ガイドを否定する声がしばらくの問聞かれました。現在では「レファ・・・・・・」と「ラファ・・・・・・」が主流となり、この「レファラ」のハーモニーを否定する声は聞かれません。昔は耳慣れなかった「レ」に違和感を感じていた人が多かったのに、今では誰もが違和感を感じることなく当たり前のように「レ」を用いた吟じ出しをしています。

 伝統的吟詠の基本的な絶句の節は、七言絶句のための節になっています。図1に 七言絶句の代表的吟詠譜を紹介しました。ABCD・・・・・・に実際の詩文を当てはめてみましよう。

 平成28年度の課題吟から「山間の秋夜」を例に譜づけをしてみます。

 Aヤショク(五'三'三) Bシュウコウ('二'三'三'三) Cトモニ(五六六) Dイチラン(二三三三) Eアクマデ(乙二二) Fフウロヲ('三三三三)オサメテ(二'三三三) Gヒカンニ('三五五五) Hイル(二三) Jキョエン(七六) Kタチツクス(五七七七六) Lゴドウノ(七六六六) Mカゲ('三三) Nラクイ(二一) Pスウセイ(二三) Qサンゲツ(七六六六) Rサムシ(五'三三)

 これらはアクセントに従って音程を決めるとき、言葉の最後の音程が当てはめるべき個所の音程と同じになるように決めていったものです。他の詩文でも試してみましょう。

 この吟詠譜は七言絶句に合うようにできていますが、五言絶句のときにも使えます。同じく課題吟から「桜祠に遊ぶ」を同じように当てはめる事ができます。ただし、漢字の文字数が少ないのでABEFJKにはそれぞれ漢字一文字分の言葉を当てはめるようになります。この要領で五言詩の全てが同じように当てはめられれば問題ないのですが、結句のように、「緑陰」を二つの言葉に分けられないのでNに「緑陰」を当てはめるとPに入れる言葉が無いので、Nの節とPの節を結合して一つの節にします。例えば「リョクイン(乙一二・・・・・・二三・・・・・・’三三・・・・・・)」とか「リョクイン(乙一二・・・乙水三・・・’三五・・・・・・)」のようにします。同じように「春暁」の承句「処処」もEに当てはめるとき「ショショ(二一・・・乙三・・・・・・’三三・・・」のようにFまでつなぎます。

 CLQなどに(三)があるのは、「中秋月を望む」の「樹にからす栖む」の「樹に」のみ別に読んで、次から高い節にしたいときにあてはめます。

 詩文によっては言葉の区切りが難しく、どこで切っても吟じにくいものもあります。難問に出会うのも楽しみの一つではないでしょうか。