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〈説明〉
八十歳を過ぎてもなお立派な吟を聞かせてくださる方も沢山いらっしゃいますので、一概に加齢によるものと断言はできませんが、加齢によって体のあらゆる面で変化があるだろうことは誰しもが納得することとおもいます。
音程に変化を与えるような身体の変化とは何でしょうか?すぐに思い当たるのが声帯です。声帯そのものが筋肉ですが、声帯を含めたその周辺の筋肉を総称して声筋と言うそうですが、これらの筋肉の衰えで音程が下がることは容易に想像ができます。しかし、今回のご質問とは内容が一致しません。声帯をコントロールする筋肉の衰えが原因だとしますと。ご本人が目指す高い音程が出ないという症状でなくてはなりませんが、あなたのお話しでは、苦しくないとのこと。つまり意図する音程は出ているという認識のようですから。加齢による声帯の衰えは、少なくとも今回の場合、原因ではないと思わなくてはなりません。声帯でなければ次に気になるのが聴覚です。
私の吟界における五十年の経験から、耳のせいと思われる音程の異常を何度か経験したことが有ります。ある会派の高弟で、吟力は会派の中ではトップクラスの方が、ある日突然、音程がめちゃくちゃになったのです。ご本人の言では「伴奏が聞こえずらい」とのことでしたが、そういうレベルではなく、一節毎に本数が変わってしまうという現象ですから、伴奏が良く聞こえず、次第に音程がずれてくるという現象ではなく突然違う本数になってしまうという現象が一吟の間に何度も起きるのです。これは耳の問題と言っても聴覚神経の問題ではないかと思います。耳から脳へ音程を伝えるコルチ器官の異常や脳そのものの異常などが想像できます。そのような方は何人かいらっしゃいました。皆さんご高齢の方です。
数多くの吟詠家の音程の変化を見てまいりましたが、あなたのようにわずかに低くなるという吟者は多いです。正確なデータはありませんが、私の感覚では上手な吟者によくある現象と思っています。
私の身近な人で若い頃ジャズ歌手をしていた人がいましたが、知り合った当初はカラオケへよく行き皆とよく歌っていました。「さすがにプロだな!」と感心したものですが、いつの頃からか、勧めても歌わなくなりました。「声が出ない」とのことでしたが、私と二人だけの時に歌ってもらいましたが、以前に比べ音程がぶら下がるようになったのです。「音程が低い」と言うと、その時だけは伴奏に合うのですが声が落ち着かず、音程は合っていても「ハモらない」状態です。本人曰く「ハモっていると思うときは低いと言われる」
貴方の場合もこれと同じ状態ではないでしょうか?ご自身では低いと思っておらず、設定の本数が高すぎて苦しいというわけでもないということなので、伴奏に対してよく合っていると思うとき、人には低く聞こえるというわけです。
声の音程は(声以外も)声の倍音に関係なく基音の音程がその時の声の音程として周りの人に聞こえます。しかし楽器や他の人の声などとハモらせるとき、倍音が大いに関わってきます。一般的に倍音は基音に対して整数倍つまり規則正しく並んでいますので、基音がハモれば倍音も当然ハモるはずですが、何らかの理由で基音と倍音が整数比になっていないと、単純に伴奏と調和することが出来なくなります。声は人それぞれで、本人一人だけでハモるという恵まれた倍音の持ち主もある一方で、ハモりにくい声の持ち主も多いと思います。これが加齢による変化だとすると、加齢によって声の倍音がきちんと発生していない(発声ではなく)ということになります。腹筋を緩めると高次倍音が少なくなることは知られています。つまり腹筋や背筋の衰えによって倍音が少なくなったり規則性が崩れたりしているのでは?これに注目して、吟詠中に筋力を意識してみましょう。また硬めの声を意識することも試してみましょう。
※こちらの質問は『吟と舞』2022年9月号に寄せられたものです