公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
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吟詠音楽の基礎知識 2026年4月





 

〈説明〉

一吟会の場合、会派にもよりますが、たいていの場合尺八のみになりますので、勿論、尺八主体の伴奏で、終始尺八の音が聞こえる状態になります。しかし、この場合でも吟者によって尺八の伴奏法を変えるようにしています。吟者が初心者か初心者に準ずる方の場合はなるべく吟の節に沿った演奏をしたり、次の節の冒頭の音を示すなど、なるべく吟の節から外れないように気配りをしますが、中級者以上に対しましては言葉と尺八の音が重ならないように注意します。例えば「雲外の~~~~巓~~~~」に対する伴奏は「~~~~ ~~~~」の部分にだけ伴奏音を重ねます。そうすることにより声量の少ない吟者の場合でも言葉がはっきり伝わりやすいからです。また上級者に対する場合は前奏の後の「仙客~~~来たり遊ぶ~~~」のような吟じ出しには全くの無伴奏とし、「雲外の」の直前に音程ガイドとして「シ(六)」の音を聞かせるところから伴奏を再開することもよくあります。また上級者の場合は、「~~~ ~~~」の部分だけに伴奏をするときも吟の節ではなくなるべく音を変化させない工夫をして吟の節調が目立つように気を付けます。
尺八の音が変化すれば、聞く人の耳は尺八の方に引き付けられてしまいがちだからです。吟より尺八を聞きたい人には好まれるでしょうが(笑笑)

 従いまして、尺八のみの場合でも、吟の上級者ほど伴奏は控えめになります。極端なことを考えてみてください。吟声のみで音楽が成り立ってしまうほどの名人の場合、それ以上の音が必要ですか?吟が引き立つように伴奏するのですから、吟の邪魔をするような伴奏ならない方が良いのです。

 昔ながらの尺八伴奏法として、吟の節の通りに演奏する「べた付け」と言われる奏法や、吟者の歌う僅か後に同じ節を演奏する「後追い」奏法などがありますが、いずれも初心者には都合のよい伴奏でしょうが、聴衆の立場では邪魔に聞こえるでしょう。

 「~~~~」の部分にのみ伴奏する場合も吟の節を演奏する場合と、吟声とハーモニーを成すように音を選びあまり変化させない場合があります。吟声が「ミファラ」のあたりを唄っているときは「ラ」の音を主に使い、声が「ドシ」のあたりを唄っているときは「ミ」の音を使い、あまり音を変化させない伴奏法が吟を邪魔しない控えめな伴奏と言えるでしょう。また逆に吟声が高音の「ド」を長く伸ばしているようなときに、「ラミドラ~」と動いて「ラドミ」の和音を強調する伴奏法もありますが、これは「控えめ」の逆で伴奏が目立つ方法です。このように単音楽器である尺八でハーモニーをなぞる場合を「分散和音」と言い頭の中で和音として感じる方法です。箏や十七絃の場合も基本的にはこの「分散和音」の方法をとりますが、同時に複数の音が出せますので、直接、和音を演奏することもできます。

 箏や十七絃は弾音楽器で音が瞬時に減衰しますので、物理的に声と重なる時間が短い為、尺八より音選びに自由度があります。尺八は連続音楽器ですので、声と弦楽器のどちらにも不協和音にならないことを必須条件としますので。箏と十七絃が異なる音を演奏しているとき、尺八の選べる音は限られてしまい、しかも弦楽器と同じ音か声と同じ音を選ぶことが多いので、おのずと音を出さないことが多くなるのです。

 しかし絶句一吟の中で伴奏が目立つ場所もあった方が全体の中のアクセントとなり、変化のある音楽ともなりますので、転句のあたりで10~20秒位、伴奏が目立つ個所を設けることもよくあります。

 和歌(短歌)の伴奏についてはまた別の特徴があります。和歌の朗詠は一般的に同じ歌を2度詠じますので、変化をつける意味で一回目(序詠)と二回目(本詠)とで伴奏を意識的に大きく変化させます。その為に序詠を尺八無しにすることがよくあります。吟のほうも序詠は比較的あっさりと詠じ、本詠で力強くたっぷりと歌うという場合が多い為、伴奏もその調子に合わせ、序詠は静かな雰囲気にするべく尺八を入れず、本詠から尺八を入れることが多いです。もっとも、この伴奏法は世間一般に行われているわけではなく、舩川利夫先生が長年の編曲活動の末に確立された方法ですので、私もそれに倣って同じ方法をとっていますが、吟題によっては尺八が主体となるものもあります。

 ここまで尺八が控えめになる場合とその理由をご説明してまいりましたが、尺八のお好きな貴女様にとってはいつも尺八が前に出て欲しいのでしょうが、一般的には歌物はやはり歌が中心で、歌を聞こうとする方が多いはずですから、吟が目立つようにするのがふつうだとおもいます。すみません。

 

 ※こちらの質問は『吟と舞』2022年3月号に寄せられたものです