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〈説明〉
吟詠という呼称は「漢詩を吟ずる」ことと「和歌を朗詠する」ことを併せた意味であると理解しておりますが、特に「漢詩を吟ずる」詩吟に関しては歴史的にも男性、特に江戸時代の漢詩学者や書生たちが漢詩を暗唱するために、二句(一いち聯れ ん)毎に一つのメロディーをもって吟ずることから始まったものと想像できますので、当然詩吟はオモテ声ではじまったものです。現在は最高音の「八・(ミ)」はウラ声で発声するのが普通ですが昭和の初めころは熱血の情を表現するべく「八・(ミ)」もオモテ声で発声することを良しとしていました。「七(ド)」と「八(ミ)」の音程は4本も離れていますから、オモテ声の「八」はほとんど悲鳴に聞こえます。ですからこの最高音を使う場合は普通より少なくとも2本は低く吟じ出さないと声が裏返ってしまいます。高音の伸びが素晴らしい木村岳風先生も「八」を使う場合は「2本調子」が多かったようです。
しかし時代が下って流麗さが求められるようになると「八」はウラ声で吟じられるように変化してきました。勿論、会派によっては、また吟題によっては今も「八」をオモテ声で吟ずる人もいます。ですから「七」以下の音程をウラ声で発声することはよほど特別な表現を必要とする場合に限られると考えるのが普通です。
近年ウラ声を使った詩吟が多くなった原因を考えてみますと、吟界に女性の人口が増えた為と、その女性の吟が力強さよりも流麗さを強調するがため、発声を柔らかくしようとしてウラ声になるのではないかと推測します。また、多くの女性が和歌を好み、詩吟よりソフトに吟ずるものと決め込んでいる方が多い為ではないかと、これも私の推測です。
ウラ声になってしまう吟をオモテ声にする方法は極めて簡単なことですが、問題なのは指導を受ける側が本当にオモテ声で吟じたいと思っているかどうかです。私が50年間吟界にお世話になり分かったことは、男女ともに「なるべく高い本数で吟じたい」そして女性の場合は「オモテ声よりウラ声の方が上品で女性らしい」と考えている方が多いという事実です。
オールウラ声の会員さんが「7本」とのことですが、その方は「3本」に下げてもウラ声のままだと思います。そして「低い節の声が出ない」と言うでしょう。その方は普段の会話もすべてがウラ声なのだと思います。そういう方は意外と多いです。こういう場合、矯正は諦めましょう。
ウラ声で吟ずる女性もほとんどの場合、普段の会話でオモテ声とウラ声の両方をつかっています。こういう女性はオモテ声を出せますので「三~八~三~八~」の発声練習をしてオモテ声とウラ声の違いを感覚的に区別できるようになってもらいましょう。そして男性と一緒に「1本調子」で合吟の練習をしてオモテ声を主体に発声する癖をつけましょう。ここで肝心なことは「全員が1本調子」で発声することです。稽古の度に一度は実行することです。ウラ声になってしまう女性だけでなく「全員で1本」が大事です。特定の人の為の稽古ではなく「全員で」毎回「儀式のように」実行してください。この練習で「オモテ声」に目覚めた方のみ個別に「オモテ声」の稽古をしましょう。たぶん「1本調子」でも「五六七(ラシド)」がウラ声になる場合が多いです。ウラに変わった瞬間に指摘しましょう。これを繰り返すことでウラとオモテの変わり目を意識できるようになるとおもいます。どうしても高音がウラになるのでしたら本数を下げましょう。「頑張らないとウラになる」感覚が分かればしめたもの。あとは時間の問題です。何度も繰り返し全てオモテ声で吟じられるようになってから「2本」にしてみましょう。何か月もかけて少しづつ本数を上げることが大切です。本数を上げることを目的としては失敗します。一生「1本」で良いという気持ちで低い本数に慣れましょう。オモテ声を鍛えましょう。腹筋に力を入れないとウラになってしまう感覚を身につけましょう。楽をするとウラになる。苦しい方を選ばなければウラになる。この感覚が分かれば、後は我慢の繰り返しで次第に力強いオモテ声になるでしょう。
決して本数を上げることを急いではなりません。諦めると水の泡です。……これ以上はしつこいですね。(笑笑)
一番心配なのは「ウラ声の方が上品で女性らしい」という感覚がぶり返して元の木阿弥になることです。参考までに、最近初めて知ったこと、NHKの女性アナウンサーは基本的に「オモテ声」だそうです。民放とは真逆‼
※こちらの質問は『吟と舞』2022年2月号に寄せられたものです