公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
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吟詠音楽の基礎知識 2022年7月




〈説明〉

俳句に使われる音階には、(図1)にまとめたように、陰音階の他に三つのよく似た音階があります。 これらの音階を何オクターブも重ねると、どの音階も1・1・1半・1・1半・1・1・1半・1・1半・の繰り返しだということが分かります。つまり同じ音の階段でありながら、どこを主音にして始まるのかによって、音階の種類が異なるというわけです。

これと似た関係にある音階が長音階と短音階です。・・・シドレミファソラシドレミファソラシドレミファソラシ・・・という音の階段において、「ド」を主音とするのが長音階で、「ラ」を主音とするのが短音階です。同様に同じ音の階段を使い異なる音階として陰音階と四七抜き短音階があります。どちらも・・・ファラシドミファラシドミファラシドミファ・・・という音の階段を使い、「ミ」を主音とするのが陰音階、「ラ」を主音とするのが四七抜き短音階です。

問題の俳句の音階ですが、俳句の練習の時に使うコンダクターの階名が「ミソラシレミ」なので、◎印の階名を基準に説明します。ここで使われている階名は・・・ラシレミソラシレミソラシレミソラシ・・・・という音の階段で、貴女が申告された音階は「レ」を主音とする6本の陽音階ですから「レミソラシレ」となります。しかし、普段練習されている音階は「ミソラシレミ」ですね。尺八奏者は「レ」を6本にしていますから、当然「ミ」は8本になり、8本の尺八音階で吟じることになってしまったのです。陽音階による前奏で尺八音階を吟じることができるのか?とお思いですか?その疑問には次の説明が分かりやすいと思います。陰音階で・・・ミファミーラシ― ドシラファ― ミレミー・・・と聞いて「俺は河原の枯れすすき・・・・・」と歌いだすことができると分かれば納得いただけるのではありませんか?これは和歌を低音から吟じ出すのと同じです。「人生劇場」は「四七抜き短音階」ですが、音の階段は「陰音階」と同じ階段ですから、歌いだしやすいのです。

和歌を低音から吟じ出す場合、伴奏者が気を利かせて、前奏の最後を「・・・・ドシラー・・」とするのは正に「四七抜き短音階」の前奏なのです。低音とは逆に、剣舞の伴吟などで高音から吟じ出す場合がありますが、この場合も一般的には普通の陰音階の前奏が行われます。この二つの音階もよく似ていますが、「陽音階」「四七抜き長音階」「尺八音階」の3音階はさらによく似ています。そのうえさらに厄介なことに、各々に3通りの階名があてられるということが問題をさらに複雑にしているのです。

吟界に「陰音階」という認識が広まったのはおよそ40年くらい前のことで、これに遅れて認識されたのが「陽音階」でしょう。もちろん、琵琶出身の吟詠家は最初から承知のことだったでしょうが、一般の吟詠家には無意識のうちに両方が混在していたのではないかと想像します。「陽音階」は「陰音階」の対語のように認識されているようですが、実際にはごく一部の音階につけられた名称なのです。このように陰音階以外の音階は区別がつきにくいからか、民謡の畑では声の高さを表す方法として「〇本」ではなく「〇寸」と尺八の長さで表現する習慣があります。

俳句の本数でトラブることを考えますと、「6本○音階」と言わずに「8寸」と申し込めば音階の違いに拘ることなく吟じられたのだと思い知らされ、改めて民謡界の習慣の利便性を再認識してしまいます。「8寸」と申し込めば奏者が陽音階を演奏しようが尺八音階で演奏しようが、はたまた四七抜き長音階で演奏しようが、聞こえてくる音の階段は6本のコンダクターで「ミソラシレミ」と弾くときの音と同じですから。貴女の場合は次回から「8寸(一尺八寸)で」と申し込むのも良い方法です。

※こちらの質問は『吟と舞』2018年3月号に寄せられたものです