公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
Nippon Ginkenshibu Foundation
News
English Menu
吟剣詩舞の衣装を考える 2020年4月




「詩舞の衣装を考える」

詩舞の衣装を考える吟味家・剣舞家の舞台衣装につ いては、先月・先々月の二回にわたって述べてきたが、これらはいずれもコンクール審査規定を復習した範囲でしかなかった。現実の問題として、コンクールではない、各流派独自の演奏会で見られる、吟詠家・剣舞家の衣装はといえば、大体がコンクールに"似たり寄ったり"のものが多いように見うけられる。
 しかし最近といっても十年以上になるが、コンクール以外の独自の演奏会や、財団主催の企画構成番組に上演される「詩舞」の舞台衣装については、年ごとにその変化の差が大きくなるというか、良い意味での創意工夫が 見られて来た。

「詩舞の舞台衣装」

 まず参考のために、コンクールの出場者演舞のルールに述べら れた項目を見ると、詩舞の「衣裳と持ち道具」では、①衣裳は和服、はかま着用とし、なるべく簡素化したものとする(注、紋付と指定がないので模様などの柄はあってもよいが、歌舞伎、日本舞踊の衣装のような派手なものは駄目。はかまは必要で着流しは駄目。)となっているから、剣舞に比べると和服の袂の形の工夫や、「肩衣」「袖なし」の応用や、「襟」の形についても「普通の襟」「伊達襟」「比翼襟」などの工夫で、詩の心を表わす作品にふさわしい色彩や様式美を選ぶことが出来る。
 例えば写真に示すような、徳川景山の「弘道館に梅花を賞す」の詩舞の舞台衣装では、作品にふさわしい、色や柄の着付けは多々あると思うが、ここではあえて演者をクローズアップして、作品の内容に深く関わりのある梅模様的扇を持ち道具に使って、振り付けを活かしている。



「詩舞と衣装と扇」

 そもそも詩舞という芸能が派生したのは、明治維新によって扶持を離れた武士や武芸指南者などが、相撲の興行にヒントを得て剣術試合を行い、その興行のアトラクションとして漢詩の吟詠などに合わせて剣舞を見せたのが発端となり、この撃剣興行には女性の剣舞家も登場して好 評を得たために、更に一歩前進して、女の剣士が刀のかわりに歌舞伎舞踊で使う舞扇を持って舞ったり、見立ての振りを踊ったのが詩舞の始まりといわれている。ちなみに当時は詩舞とはいわず扇舞と呼ばれ、このように 先行芸能の剣舞の格調ある様式を譲り受けて、扇の文様も自由ではあるが、作品にふさわしい ものや衣装との協調性が大切にされる結果になった。
 従って詩舞の場合は、歌舞伎舞踊の影響を受けてはいるが、写真に示す日本舞踊「藤娘」の ように衣装の模様や、持ち道具の藤の枝のように、すべてを藤 尽にすることはなく、詩舞の衣装は、絵柄は省いても藤色を主体にして持ち道具も「扇」の絵柄を工夫して、振り付けに詩の心を見せるべきであろう。

(写真:日本舞踊「藤娘」)



「詩舞で使える扇の効用」

 現在、詩舞で使っている扇は、日本舞踊や民謡舞踊、歌謡舞踊(新舞踊)などと同じもので、十本骨(親骨二本と子骨八本)で出来ている。大きさは長さが一尺(30センチ)位、なお幼年向きでは八~九寸(25センチ)前後のものも作られているが、その絵柄は、扇が衣装や詩の内容を代弁するほどの効用も持っている場合が多く、参考のために次に掲げでみた。



(写真:詩舞「弘道館に梅花を貫す」見城星梅月)



「扇のいろいろ」

①幼年用「桜」
②自然界の「雲」
③自然界の「川の流れ」
④山の景色」(遠山)
⑤ 抽象的な「荒れ模様」

 また、扇の効用として、特定の意味はないが、主に祝儀的な動作や、能などから借用した動きの「かざし」「たつぱい」などや、扇自体のテクニックの「要返し」「曲使い」「二枚扇」などは衣装の絵柄には関係なく無地がよい。