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〈説明〉
詩吟に使われる和音は「ラドミ」を中心に「レファラ」「シレファ」「ミシ」くらいなものです。特殊な場合を除いてはこれだけです。この中に「ドファ」の組み合わせを持った和音はありませんね?「ミファソラシドレ」すべてを考えても「ドファ」を含む和音は「ドファラ」しか見当たりません。「ドファラ」の和音を実際に聞いてみると納得がゆくと思いますが、誰が聞いても詩吟より明るく開放的な響きです。これは長音階(長調)に属する和音で、「ドミソ」「シレソ」「ドファラ」の世界です。詩吟に近い世界の短音階(短調)とは真逆の世界で裏と表の関係です。
何故こういうことになったのかを考えてみました。
少なくとも50年前までは「ド」の次に「ファ」が続くことはありませんでした。
「春夜」の吟じ出しを例にすれば、50年前は無アクセントか平板か頭高がほとんどで、中高で吟じることはあまりなく、「しゅんしょう~」は「ミミミミ~」や「ファファファファ~」とか「ドミミミ~」や「ミファファファ~」くらいなものでした。またその頃は「レ」も使われていませんでしたので。「レファファファ~」を聞くこともありませんでした。琵琶楽出身の吟詠家は当初より「レ」を使っていたはずですが、全国的に「レファ~」の吟じ出しが流行ったのは、財団のコンクールの前奏が「ミファミ~ラシ~ドシラファ~ミレミ~」となってからです。この前奏には当初批判が多く。「詩吟に『レ』は使わないものだ。舩川利夫先生は洋楽の作曲家だから平気で『レ』を使っている」と陰では不評でした。話していたのは財団の役員の方同士でお相手も「その通り!」とうなずいていらっしゃいました。河野が舩川の弟子と知らでか又は伝わるようにかは判りませんが(笑)
しかし数年後には「レファ~」の吟じ出しが増えてきたことに私は目を見張りました。案外違和感なく取り入れられてきたものだと、吟界を見る目が変わったことを覚えています。
時間的な前後関係ははっきりとしませんが、同じころコンクールにアクセントの規定が導入されました。このことは「レ」の問題以上に吟界を揺るがし、脱退する会派も少なくなかったと覚えています。しかし難しい言葉の多い詩吟において、言葉の意味をなるべく正確に伝えるため、「橋」と「箸」、「飴」と「雨」などの違いを明らかにするためにもアクセントも区別をするべきとの主張が全体をリードしましたが、この時は以前にもまして私の耳に多くの不満の声が聞こえてきました。
共通語になじんでいない方にとっては、節と声のみに集中してきた吟詠がそれ以外のことにも注意しなくてはならないことに、大きな障害感があったでしょう。
それまでは「ドミ~」を使うことの多かった吟詠家は中高の言葉も平板で「ドミ~」と吟じていましたが、アクセント規定導入後は「上れば~」を「ドミミミ~」では通用しなくなり、仕方なく「ドファファミ~」と吟じるようになりました。しかし舩川利夫先生に言わせれば、「ドファミ~」は我慢できても「ドファファミ~」は詩吟の世界ではない。まして「古より」の「ドファファファファミ~」などもってのほかと仰っていました。数年後にはほとんどの人が「古より」を「レファファファファミ~」と吟じるようになりました。
先生は「ドファミ~」のことを頻繁に仰るのでその度に私は「吟じている本人の頭の中は『ドミ~』と響いているのでしょう?」と言うのですが、先生は「『ドファファファファミ~』が『ドミ~』のつもりとはとうてい信じられない」と仰いました。しかし私は今でも「上れば~」の「ドファファミ~」は「ドミ~」のつもりで吟じているものとして伴奏は「ラドミ」の音を使うことにしています。
しかし今回お問い合わせの「春宵~」は平板の言葉ですから、音程は2種類で済みますので、「レファ~」「ラファ~」「ミファ~」又は「ドミ~」「ラミ~」のどれかで良いと思いますが、明るく響く「ドファ~」をあえて使う意図はどこにあるのでしょうか?もし意地悪く「ドファラ」の前奏をされたらきっと吟じ出せないと思います。このことは今までに3度確かめていますので間違いなく吟じ出せません。「ドファ~」と吟じ出すとき、きっと貴女の頭には「ファ~」だけが響いているのでしょうから、前奏が「レファラ」又は主和音の「ラドミ」で終われば「ドファ~」と吟じ出せるのでしょうが、音楽的にはどちらの前奏にも合わない吟じ出しとなってしまいますし、前奏と関係ないことを吟じ始めたと聞こえます。
「ドファ~」の吟じ出しが習慣になるとたいへんなことになってしまいます。今から急いで「レファ~」と「ミファ~」の吟じ出しを練習しましょう。「ドミ~」もネ。よほど特殊な場合でないと「ドファ~」の吟じ出しはあり得ません。流派の問題では有りません。
中高の為に仕方なく「ドファミ~」と吟じたことが、紙の上で独り歩きして「ドファ~」もありなのだと勘違いさせてしまったけっかです。中高で「ミ」に落ち着きたいのなら当然「ミファミ~」が真っ先に思いつくはずですが、これが使われないのもコンクールの弊害です。何故なら、音程差の少ない「ミファミ」を使うと「無アクセント」の判定を受ける恐れがあるからです。現在はまさかそのような審査員はいないと思いますが……。
※こちらの質問は『吟と舞』2022年1月号に寄せられたものです