公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
Nippon Ginkenshibu Foundation
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吟詠音楽の基礎知識 2025年12月






 

〈説明〉

「昔風の吟」と言われても実際に拝聴しませんと何が不都合かはっきりとは申し上げられませんが、他流の方が「昔風」と感じたのなら言葉のアクセントが共通語とは違っているとか、「渡り」や「しゃくり」が多いとか「言葉の途中に節回しが有る」などのことではないでしょうか。

 財団主催のコンクールの課題吟は財団から出版のアクセント付き漢詩集から選ばれますので、必ずアクセントが指定されています。アクセント記号の見方が分かれば課題吟全てのアクセントが分かるようになっています。

 今回のご質問は、アクセントについてよくご理解の方にとっては「今その質問?」と思われるでしょうが、この質問を有難く思われている方も案外多いのではないかと思います。何十年もの間「アクセント」「アクセント」と話題に上がっていたことを、今更「アクセント?」と質問したくても質問することをはばかる方が多いのが現実ではないかと思いますので、この機会に詳しくご説明しようと思います。

 元来「アクセント」の意味は「強調」という意味ですので、絵画やデザインの世界でも使う言葉ですが、音楽や話し言葉の中では、ある瞬間を強く発することを意味しますので、英語ではその瞬間を特に強く発音して言葉を明確に伝える役目をしています。しかし、日本語における「アクセント」は意味が違います。本来「イントネーション」と言うべきところを英語の「アクセント」になぞらえておなじ表現をしていますが、日本語の場合は言葉の音高、つまり声の音程の高低のことを指して「アクセント」と言っているのです。

 コンクールにおけるアクセントは基本的に「NHK 放送文化研究所」の「日本語発音アクセント辞典」を基準にしています。これを頼りに財団から出版されたのが「アクセント付き漢詩集」です。(図1)にこの漢詩集の中から良寛の「時に憩う」を挙げました。アクセントに精通の方にはおなじみのアクセント付き漢詩文ですが、ここではなじみのない方や、なんとなく解ってるかも? 位の方の為に一からご説明します。

 まず、コンクールに出吟の場合、基本的にはこのアクセント付き詩文が提示されますので、アクセント付き漢詩集を必ずしも必要としません。図1の「時に憩う」を例にアクセントの説明を致します。

 最初にアクセント記号に注目しながら全体を眺めてみましょう。それぞれの言葉の最初の音にはアクセント記号が付いていませんね?共通語は1音目と2音目では必ず音程が変わる。というのが統計から導き出した原則です。(是非については別の機会に)

 言葉の右側と左側にアクセント記号が有りますが、どちらを採用してもかまわないことになっています。この場合音程の表示が逆になっていることに注意しましょう。文字の方向に曲がる印が音程の下がる印です。アクセントの種類は基本的に3種類です。平板へいばんと呼ばれるのが「たきぎを」「すいしんを」「くだる」など。中高なかだかと呼ばれるのが「にのうて」「たいらか」「ときに」「いこう」など。頭高あたまだかと呼ばれるのが「ならず」「しずかに」「こえ」などです。

 具体的な説明をします。

 吟じ出しのアクセントは平板ですから、「タ」が低く「キギヲ」が高くなることを表してますので「二′三′三′三′」や「二三三三」や「三′五五五」や「五六六六」などの節が使えます。次の中高の「ニノウテ」は「ノ」だけが高いので「三五′三′三′」や「三五三三」や「三′五三三」などが考えられます。頭高の「シズカニ」は「二一一一」や「三一一一」また最後の「コエ」は「三′三」や「五三′」。

 ここで私が選んだ音程は一般的な吟の節に使うことの多い音を使いましたが、会派によっては別の音程になることは当然有り得ることです。また、紙の上だけで考えていますと不自然な節になってしまうことが多いです。実際に声に出して確かめることが大事です。

 上手な人がつい使ってしまう「渡り」の技法はコンクールにおいては減点の対象となりますので注意しましょう。「渡り」の形は様々ですが、たいていの場合、1音目と2音目の音程が言葉と同時に変わらないという形が多いようです。例えば「スイシンヲ」が「五六六六六」となるはずの読みを「スイイシンヲ」「五五六六六六」と吟じると減点。また「シズカニ」を「シズウカニ」「二二一一一」となっても減点です。因みに「モト」は尾高おだかですが後ろに「てにをは」が付くときは下がるという意味で、吟じるうえでは関係ありません。また、濁音に丸印は半濁音と言い、鼻に抜けるように発音しないとこれも減点です。この鼻濁音には例外が沢山あります。気を付けましょう。

 

 ※こちらの質問は『吟と舞』2021年11月号に寄せられたものです