公益財団法人 日本吟剣詩舞振興会
Nippon Ginkenshibu Foundation
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吟詠音楽の基礎知識 2025年6月





 

〈説明〉

貴方のおっしゃる様に今年の少壮コンクールは低調と言わざるを得ません。原因はお察しの通り、新型コロナの感染問題と、かねてよりの応募者の減少です。

 感染問題につきましては、疫学上、去年と変わらない、というよりむしろ変異株などのことを考えると去年より厳しい状況下であったといえるでしょう。しかし1年を経た今回は、感染を防ぐ方法がかなり分かってきているので開催することが出来たのです。しかし、応募者のうち多くの方が感染の危険を重く見て欠場しました。当初よりの予想ではあったでしょうが、私個人の予想よりは多い欠場でした。欠場された方々のご事情は様々でしょう。ご自身の感染そのものを恐れる方や、家族にお年寄りがいる方、周りから強く引き留められた方、中には公のお仕事に携わり、世間からのヒンシュクを恐れて欠場せざるを得なかった方など、様々な状況が想像できます。

 このようなコロナ禍においてコンクールを催すことに反対を唱える方も多いと思いますが、社会全体を俯瞰してみますと、ただ、ただジッとコロナ禍が通り過ぎるのを頭を抱えて待っているだけでは文化・社会が大きく崩壊してしまうのだと思います。感染防止と経済の推進が相反する対応であるように、文化もそれに連動しているのですから、方法を模索しながら、一歩ずつでも前へ進めようと努力することが重要と思います。

 感染症で亡くなった方とコロナ禍が原因の自殺者の数を天秤にかけなくてはならない立場の方を誰が責められましょうか?

 今回の貴方の投稿は、採点基準以外全て吟詠人口の減少に関連しています。

 人口の減少により応募者が減少しました。その結果各地区での予選が減りました。その結果、本来高度な吟詠技術を持つ者だけが応募するはずの少壮コンクール決戦に、未熟な吟詠家も出場できるようになる。その結果上位を競う人数も少なくなり、競争率も低くなり、詩文を見るか見ないかの差は重要でなくなる。従来通り15名の入選では、未熟な人も採用されてしまう。

 この問題は昨今始まった問題ではなく、バブルが弾けた平成当初つまり30年前から始まっていました。深刻になったのは平成10年頃から。大きな会派ほど急激に会員減少が進み、小さな会派は大会の開催も難しくなり、隔年の開催にするなど運営も難しくなってきました。

 令和になった頃、大きな会派は全盛期の10分の一になってしまいました。多くの会派を擁する吟剣詩舞振興会も苦戦してまいりました。武道館の合吟コンクール出場会派が減少の為、一会派での出場に限らず、県連盟としての出場も認めたり、55名で競う合吟コンクールを35名制にするなどの工夫もしながら、続けてきました。

 これらの苦難に輪をかけるように、コロナ禍が襲い、去年は無観客の武道館となりました。

 今年の武道館がどのような状況下になるか分かりませんが、1チーム20人としても合吟コンクールを実現したいものです。合吟コンクールが有ると無いとでは関わる人数が全く異なります。吟界全体の気運にも関わってきます。

 採点基準の話が最後になりましたが、回答の欄で申し上げましたように、審査員によっての個人差の他、アクセントと調和の各専門審査が有りますので、一般審査の得点が良くてもアクセント審査の結果が悪ければ得点は伸びません。逆に、あまり目立たない吟詠でも全くミスが無ければそれなりの上位に入れることもあります。

 ちなみに、私が担当の調和審査に関してですが、音程の狂いが全く無いという場合、コブシが多い人の方が得点は高くなります。何故なら、コブシの多い方が音程の狂いをもたらす危険度が高いからです。体操競技でもウルトラCよりウルトラDの方が高得点なのはDの方が失敗する危険性が高いからです。

 また、調和審査に関してあまり理解されていないことですが、大きな節の音程が正確でも、言葉の読みそのものの音程も審査対象ですので、言葉の読みがいい加減ですと得点が伸びません。このようなことが採点結果の違いとなっているかもしれませんね。

 * 今年の武道館大会は中止が決定いたしました。(P24公財ホットニュース参照)

 

 ※こちらの質問は『吟と舞』2021年5月号に寄せられたものです